「過去最強クラス」と言われた台風14号が近づいていた。
福岡県東部の山あいにある福智町でも、次第に雨と風が強まっていく。
9月半ばのことだ。平野八十八(やそはち)さん(76)は台風に備えてレモン畑を見回り、切れていた麻ひもを結び直した。
「人の命が無事ならいい」
そう考えながら、台風が通り過ぎるのを待った。
レモン畑は4年前、1人で始めた。
200万円を投じて用意した、1千本のレモンの苗木と、肥料と農具。
ブドウ農家の知人や苗木屋から育て方を教わりながら、こつこつと苗木を植え続けた。
カミキリムシの幼虫に根を食い尽くされたこともあれば、レモンが病気にかかって葉がねじれだしたこともあった。
たくさんの苦難も、試行錯誤を重ねながら乗り越えてきた。
こまめに草を刈り、肥料をやると、レモンの表情も変わってくる。
一本一本が自分の子どものようにかわいらしかった。大きい木は、大人の背丈ほどに育っていた。
台風の通過後、自宅から200メートルほど離れたレモン畑を見にいった。
言葉を失った。
見渡す限りほとんどすべてのレモンの木がなぎ倒され、根がむき出しになっていた。
我が子を失ったような気持ちだった。
「がっかりするね」
思わず、そうこぼした。
一緒に畑を訪れていた「ジャンボ君」は、そんな平野さんの姿を見るのがつらくて、耐えられなかった。
平野さんの自宅の近くに住む…
「レモンの木の恩返し」畑の主が叶えた願い 壊滅被害で触れた優しさ:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
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